無警戒はキミの過失

1・2・3

「んぁッ‥‥はっ‥‥あァ‥」

 黒子はあまりの恥辱と快感から意識が朦朧としていた。

 快感のみを追うことができればまだ気は紛れたものを、そうすることも叶わず、喘ぎ声が漏れるたびに後ろから声を掛けられる。

「クチがお留守になってるみたいっスけど、」

 その声に自分の置かれてる状況を幾度も思い知らされて、逃避したいと願っても、必ず現実へ引き戻される。

「気持ちいいからってダメっスよ」

 仰向けに寝る黄瀬を跨ぎ、熱く屹立した中心を咥えさせられる。口淫は初めてのことではないけれど、何度繰り返しても慣れることはなくて、苦しいし、苦手だし、何より羞恥に堪えない。

「アっ‥‥、やめっ‥‥」

 それでも奉仕することだけに集中することを許されたならよかったのに、下半身を捕らえられ、黄瀬のざらりとした熱い舌に弱い処ばかりを執拗に愛撫されては、身体を支えている手足でさえ震える。

「も、‥はな‥してくださ‥いっ‥」

 ようやく黒子の懇願を聞き入れる気になったのか、黄瀬の舌先が同じように勃ち上がった黒子の中心から離れる。

 自分が与える以上に与えられていた愉悦が去って、今であればと硬く反り返った猛りを口内へ導く。少し窪んだ先端に舌を這わせてそのカタチをなぞるように舐め上げると、舌先に体液が溢れ出てくるのを感じた。それを丁寧に吸い取って、もう一度奥深くまで咥え込む。

 自分の口腔に対してそれはあまりにも大きく、入りきらない部分は手を添えて扱いたが、それでも苦しさから自然と視界が滲んだ。

「随分巧くなったっスね」

 黄瀬から艶のある声が洩れて、鼓膜を淫らに揺らす。自分の行為によって相手が感じていると思うと、それだけで体温がさらに上がったような気がした。

 黄瀬は再び黒子の中心へ手を伸ばすと、熱を持ち震えるそこを緩やかに刺激した。

「んっ‥‥ふ、ぁッ‥‥」

 直接与えられる悦楽に思わず嬌声が上がりそうになると、黒子はそれを隠すように、口内を蹂躙する熱を喉の奥まで咥え直して無理やり喉元を塞いだ。

「ん、ふっ、‥んぅ‥‥ッ」

 鼻に掛かった切なげな吐息と猥褻な水音が部屋に響き、黄瀬が満足そうに微笑む。

「もうそろそろここだけじゃ足りないっスよね」

 そう言って上下に扱いていた手を離すと、両手でぐいっと双丘を割り開いた。突然そこを外気に当てられて黒子の下肢がびくっと震える。

 見られたくない場処を曝される恥ずかしさに逃げるように腰を引けば、それは黄瀬にとって淫らに誘う仕草でしかなかった。

 窄まった秘部をさらに押し開くように、黄瀬は親指を深くへ掛け直し、先ほどよりも大きく左右に拡げた。

「ひっ‥黄瀬、くん‥っ‥‥や、め‥ッ」

 途端に全神経が下半身に集中して、されている行為をイヤというほど鮮明に感じさせられる。

「それは‥イヤだって、いつも‥っ」

 本気で逃げ出したい衝動に駆られるほど、そこを見られるという行為には耐え難いものがあって、黒子はいつも必死で懇願する。

「知ってるっスよ、けどお願いされて止めてあげたことあったっスか」

 それがこんなふうに黄瀬の加虐心を煽るだけだと知っていても、黒子には何も言わずにただ堪えることはできなかった。

「それよりほら、ちゃんとしゃぶってないとダメっスよ」

 下肢に気を取られて疎かになっていた口元を指摘されて、それを悔しく思いながらも再び唇を動かし始めた瞬間、窄まった襞を解すように黄瀬の舌がゆっくりと入口の周りをなぞった。

「や、ぁッ‥‥!」

 ヌメリとした感覚に思わず声が上がり、黒子は反射的に口の中に含んでいたものから唇を離した。けれど黄瀬がそれに構うことはなくて、次には躊躇いなくその舌を後孔へと捻じ込んでいった。

「ん、ぅ‥‥」

 入口を押し開くように舌を差し込まれ、自らは濡れないソコに唾液を注がれる。グチグチと猥褻な音が耳を犯し、黒子は目を瞑ってその恥辱に耐えた。

 視覚を失えばその分、他の感覚が敏感になる。淫らに感じたくないとどんなに思っても、その意志を裏切って躰はひどく反応した。何度も舌で出し入れを繰り返され、疼く下肢が揺れるのも、声が出るのも止められず、目の前が恍惚とする。

「ッ、ん‥っ」

 黄瀬はその様子をじっと見つめながら、入口と中が十分に潤ったのを確認すると、自分の唾液で濡らした指先を蕾の中心へと宛てがった。

「力抜いて」

 そう指示されて無意識に強張った黒子の躰が、黄瀬の指を拒むように解した入口までも固くする。

「これはいつになっても慣れないっスねぇ」

 放射状の皺を伸ばすように人差し指で周りをなぞり、再びそこが緩み始めると、入口の前でぴたりと止めた。

「息吐いて」

 そう声を掛けたところで次にくる衝撃を知っている躰は言下に震え、逃げるように腰が引ける。黄瀬はもう一方の手で腿を掴むと、多少なりとも厳しく囁いた。

「息吐かないとツラいっスよ」

 黄瀬の言っていることは本当で、黒子が一番苦手とするのはそこに感じる圧迫感だった。排泄するためだけの場処へ、本来の機能に逆らって何かを挿入されるのは、それがたとえ僅かな質量だったとしても異物感は変わらない。まして正気を保っている今は背徳感も一入で、それが心理的圧力をもさらに増大させた。

 この瞬間を黒子が苦手とするのはその所為で、黄瀬はもちろんそれを知っている。

「できるよね」

 圧迫感が少しでも軽減されるならと、応えるように黒子が息を吐くと、黄瀬はそれを狙ってグッと根元まで一気に指を押し入れた。

「ひぁッ‥‥!」

 上がった声に離れてしまった黄瀬の中心へもう一度唇を落としても、容赦なく突き立てられた指に意識が集中して顎に力が入らない。けれど黄瀬はそんな黒子を叱責することなく、 差し込んだ指をゆっくりと動かし内部を侵食し始めた。

「ハッ‥ぁ、‥‥ん、ッ‥」

 外から何かを受け入れるようにはできていない器官は、本能的にそれを拒み、強く締め付ける。

「相変わらずキツいっスねぇ」

 黄瀬はそう洩らしながら内側で指を鉤状に折り曲げ、肉壁を押し返すようにぐるっと回す。

「い、ぁ‥‥っ」

 半ば強引に中を拡げられその刺激に入口がきゅっと収縮すると、同時に黄瀬の指が痛いほど圧迫される。

「黒子っちのために広げてるのに、そんなに締め付けたらダメっスよ」

 聞きたくもない僅かな反応も言葉にされ、黒子は恥ずかしさに黄瀬を睨み付けた。

「勝手なこと、言わないで‥くださいっ‥‥」

 けれど目に入った光景が思っていた以上に淫らで、感情のままに振り返ってしまったことをすぐに後悔した。

「だったら手伝ってあげるから、」

 直視出来ずにいる黒子の心情を知ってか黄瀬がふっと笑い、悪い予感に腰が逃げるのよりも早く、埋め込まれた指が意図的に動く。

「入口緩めるのが先っスね」

 言ったそばからぐちゅぐちゅと音を立てて激しく抽挿される指は、黄瀬の言葉通り入口を拡げることだけが目的のようで、頑なに閉じようとする小さな蕾を開かせようと、浅い部分を何度も往復する。

「ハッ‥ァ‥ん、や‥‥っ」

 黄瀬は少しの間それを繰り返していたが、指一本では緩くなり始めた頃合いを見計らって何も言わず中指を添えた。さすがに二本を咥えるのはまだキツそうだなと思いながら、それに構わず入口を抉ってやると、黒子の背中がビクっと跳ねた。

「ひぁ、ァ、あ‥‥やめ、‥ッ」

 余裕なくぎちぎちと指を締め付けながらも、そこへ与えられる刺激がそのまま官能となるよう教え込まれている躰は、黒子の意志とは関係なく痛みよりも快感を追う。これ以上感じたくなくても、躰はもっととその先を欲しがる。

 そういうふうに作り変えられたことを黒子はひどく恨んでいて、屈辱だとは思わないけれど、男なのに、と思うと素直になれない。

「ァ、はァ‥も‥それ、やめてください‥‥っ」

 いっそその手から逃れられればと懇願しはじめた黒子に、黄瀬が静かにほくそ笑む。

 入口を慣らすなんてのはもちろんただの口実で、黒子の欲を煽るためだけに浅い抽挿を繰り返している。

 後孔へ与えられる快感をすでに知っている躰が、いつまで経っても届かない奥への刺激を待てなくなるのは当然のこと。

― きっと物足りないっスよね

 そう分かっていてわざと求めさせるように仕向けている黄瀬が、解放して欲しいと頼まれて赦すはずもない。

「ハッ‥ァ‥‥黄瀬、くん‥っ」

 切なげに名前を呼ぶ声を無視して焦らし続けると、黒子の腰が物欲しげに揺れる。

 欲しいんだったら欲しいと素直に言えばいい。そうすればいくらだってあげるのに、きっと口が裂けても言わないんだろうなと黄瀬は笑う。

― 強情っスからね

「ん、ァ‥もう、‥ほんとに‥やめ‥っ」

 けれどもし耐え切れずに求めたなら、そこから先は合意に変わる。黄瀬が欲しいのはその証拠だった。

「じゃぁ、どうして欲しいんスか」

 何も考えず聞かれるままに欲しがればいい。そうすればあとになって一方的に相手を責めることはできない。

 限界を訴える息遣いと声に、黄瀬はざらついた舌を黒子の太腿の裏にツーっと伝わせた。

「黒子っちが望む通りにしてあげるっスよ」

 欲しい言葉を誘うように黄瀬が囁き、黒子の肢体は我慢できない欲に震えた。

 実際黒子は、いつまで経っても得られない内側への刺激に、気がおかしくなりそうだった。

 いつもなら欲しいと望む快楽は、声に出さなくても察するようにすべて与えられる。それなのにどうして、今夜に限って何一つ与えられない。

― 黒子っちが望む通りにしてあげるっスよ

 そんなふうに聞かれて答えられるはずもない。

 黒子は震える両手で身体を支えながら固く目を閉じ、焦らされるにつれて肥大していく淫欲に必死で耐えた。

「ァ、はァ‥‥も‥、いや‥です‥‥」

 耐え切れずに吐いてしまった弱音は暗闇へと吸い込まれるだけで、黄瀬からの返事はない。

― じゃぁ、どうして欲しいんスか

 そんな気分じゃないと詰っておきながら、もっとなんて言って強請れるわけがない。黒子の性格上、この状況を拒むこと以外の選択肢がないことを、黄瀬は当然分かっているはずだった。

 入口だって十分に慣れたはずなのに、いつもなら何も言わずに与えるその先を、どうして求めさせるのか。そこまで考え着いたとき、黒子はようやくある結論に達した。

― まさか、わざと‥?

 黄瀬の意図に気付いたとき、陰嚢に舌が這わされ、ヌメリとした感触にびくびくと躰が痙攣した。

「ん、ッ‥」

 中途半端な快楽ばかりを与えられて今にも崩れ落ちそうでも、それに負けて自ら欲することだけはしたくなかった。それが相手の目的なら尚更。

 喘ぎが洩れないよう黒子が唇を噛んで耐えると、突然ピタリと止んだ嬌声に、黄瀬はくすりと笑った。

― 相変わらず負けず嫌いっスね、まぁ、らしいけど

 心の内でそう囁いて、それならばと早々に追い詰める。

「で、オレにどうして欲しいんスか」

「だから‥やめてくださいって‥っ」

「それはムリっス、それに黒子っちもこの状態で止められたらツラいでしょ」

 思い出したように黄瀬が硬く屹立した先端にゆるりと触れる。

「う、あァ‥っ」

「ほら、」

 嘲笑するような声に、黒子の顔が恥辱で焼けるほど熱くなった。

「もう‥ほんとにやめ‥っ」

「そんなことが聞きたいんじゃないっス」

 そんなプライドさっさと捨てて、早く楽になった方が、いつまでも与えられない悦楽に悶えて苦しむよりも利口な選択だと、黄瀬が思っている以上に、黒子自身が一番よく分かっている。

 頑なになればなるほど状況は悪化することも、結局黄瀬には勝てないことも、もちろん知っている。けれどそれができるなら、最初からこんな思いはしていない。

「うるさい‥です‥っ」

「へぇ、じゃぁして欲しいこともないみたいだし、声も出す気がないなら、その口暇っスよね。だったらこの体位の当初の目的果たして欲しいんスけど」

「なっ‥」

 言われて思わず言葉を飲む。与えられる刺激と沸き起こるもどかしさから逃れるのが精一杯で、いつの間にか放棄していた黄瀬への奉仕。

 集中できなくて忘れていたなんて、バレていたとしても認めたくない。黒子は噛み締めていた唇を開くと、ゆっくりと口の中へ黄瀬を導いた。

 なんとかそれに集中しようと丁寧に舌を這わせても、後孔で強弱を付けて蠢く指に意識を削がれ邪魔される。

 自分のしている行為も相俟って、止まることなく煽られる劣情に黒子の限界は近かった。

 たまらない快感に肢体がぶるっと震えた刹那、黄瀬はそれを待っていたように浅く咥え込ませていた指を大きく左右へ開き、ぐるりと反転させた。

「ひぅッ‥‥ハっ‥ァ‥‥ッ」

「こうすると黒子っちナカ丸見えっスね」

 強すぎる刺激と、体内に冷気が送り込まれるような幻覚。そしてそれを最大限に煽る黄瀬の声に、黒子の意識が飛ぶ。

「アッ‥ハァッ‥‥、もう本当にやめっ‥気が、変に‥なります‥っ」 

「そうじゃなくて、もっと他に言うことあるよね」

 黄瀬が徐に舌を伸ばし、強引に開かれた空洞へそれを差し込む。

「ひ、ん‥っ」

「ほら、こんなにヒクつかせてて今さらでしょ」

 言葉にされることがこれほど恥辱を煽るとは思わなかった。期待にヒクヒクと収斂する入口が黄瀬の指を逃さないように締め付けていることも、そのもっと奥では擦られる刺激を待って肉壁が蠢動を繰り返していることも知っている。

 与えられない刺激に焦燥して、すべてがどうでもよくなる瞬間、思考が麻痺する。

「も‥、お願いですから‥っ」

「うん、してあげるっスよ」

 宥めるような声に躰が勝手に震え、頭の芯がぐらつく。いろいろな感情と悦楽が織り重なって、生理的な涙が止まらない。

「どうして欲しいの?」

「は、ァ‥もっと奥まで‥、」

「ん?」

 最後の葛藤をするように一旦唇を噛み締めた黒子に、黄瀬がやわらかな声音で囁く。

「言って、黒子っち」

「‥ッ」

「もっと奥まで?」

「‥欲しい、です」

 自分が仕向けたとはいえ、晒された媚態に黄瀬の中心がドクッと一回り大きくなる。

 そのまま理性を奪われれば気遣ってやることもできなくて、焦らすことも躊躇うことも無く、黄瀬は二本の指を押し広げたまま黒子の内側を最奥まで貫いた。

「ひっ、あァ、アッ‥‥」

 突然与えられた体内への衝撃に目の前がチカチカとし、直接的な刺激に黒子は身体を支えていられないほどだった。

「はッぁ‥ぁ、‥んっ‥」

 手の中で体積を増した熱が、再び忘れそうになっていた黄瀬への奉仕を思い出させる。けれど懸命に舌を伸ばしたところで、声が洩れるたびに唇が遠のき、口腔へ迎え入れることができない。

「ぅ、アっ‥、んぅッ‥!」

 先程まで焦らしていたのが嘘のように感じる処だけに運ばれる指先。それが前立腺を掠めるたびに声が上がり、口淫を妨げた。相手に確実な悦楽も与えられないまま、自分だけが煽られる。

「気持ち良すぎて集中できない?」

 そんなことを聞かれて認められるはずがないのに、認めざるを得ないほど追い込まれた今、黒子は頷くしかなかった。

「しょうがないっスね」

 黄瀬は満足げに微笑むと、後孔を侵蝕していた指を引き抜く。

「ァッ‥」

 上気した頬に潤んだ瞳を携えて振り返った黒子は、目を瞑ったら零れ落ちるのではないかと思うほどの涙を溜めていた。

 縋るように見つめる姿は凄艶でしかなくて、よっぽどヨかったんスねぇと心中で呟きながら黄瀬はそっと両手を伸ばした。

「おいで」

 窘めたあとで甘やかすのはこの人の常套手段だと知っているのに、蕩けるほど愛しげな目で見つめるから、黒子はいつも抗う術を忘れてしまう。

 呼ばれるままに黄瀬の腕の中に納まった黒子は、その表情に堪らなくなって自らキスを求めた。けれどあともう少しというところで、黄瀬の手が黒子の頬を包み込み、それを制止する。

「な、んですか‥」

「風邪感染るっスよ」

「今さらそんなことで止めるとかほんと性格悪いですね…っ」

 鋭く睨み付けながらそれでも強引に近付いた唇に、黄瀬はクスリと笑い、今度は何も言わず、熱い吐息ごとすべてを受け入れた。重ねられた唇がもっととせがむように深くなり、呼吸の 合間に訪れる僅かな隙間さえも、黒子の舌によって埋められる。

 ちらりと覗いた舌が唇に触れ、形を確かめるようにゆっくりと表面を舐め上げる。すぐさま口内へ割って入ると思っていたそれは、黄瀬の期待に反し、唇の谷間に浅く滑り込んだ状態で、左から右へツーっとスライドされた。

― どこで覚えてきたんスかね

 いやらしさに黄瀬の背筋が不覚にもゾクリとし、なかなか奥までやってこない舌に焦れて、突き動かされるように自ら舌を絡めた。歯列を舐め上げ、上顎に辿り着き、粘膜すべてを味わうように口腔を執拗に侵す。

 そんな強引な口付けに、今度は黒子がひっそりと微笑んだ。

「ふ‥‥ん、ァ‥、んっ‥‥」

 濡れた吐息が耳を擽り、黄瀬は呼応するように奥へ奥へと舌を伸ばして口内を貪った。徐々に激しくなる口付けに脳髄が甘く痺れ始める。

 止められないほど夢中になったのはどちらだったのか、呼吸さえも奪うようなキスにさすがに苦しくなって、自然と互いの唇が離れた。すると上がった息のままに、不意にほくそ笑んだのは黒子の方だった。

「やっとその気になったみたいですね」

 予想していなかった台詞に黄瀬は一瞬目を瞠ったが、さっきのあれにはそういう意味があったのかと、透かさず同じ表情を見せる。 

「試したんスか?それはまた余裕っスね」

「余裕なのは黄瀬くんじゃないですか、人をその気にさせといて卑怯です、計算なんてしてないでキミも少しは夢中で欲しがれ、です」

 恨みがましく強い口調で詰る黒子に黄瀬はふぅっと吐息した。

「そんなこと言ってバカっスね、あとで後悔しても知らないっスよ」

 言い終わるより早く黒子の腕を掴んで上半身を起こさせた黄瀬は、横になる自分を跨ぐよう膝立ちにさせた。

 頭の下に厚めの枕を重ねて上体を起こしているために、黄瀬の目の前に一番晒したくない場処を晒すという、思ってもいなかった体勢に黒子は当然拒絶の声を上げた。

「ちょっなんですか黄瀬くんっ、やめてください‥っ!」

「欲しがれって言ったのは黒子っちっスよ、オレ欲張りだから前も後ろも欲しいんスよ」

 咄嗟に腰を引いた黒子を黄瀬が逃すはずもなく、両手でしっかりと腰を掴まれ押さえ付けられる。

「両手塞がっちゃうからちゃんと自分で立ってて」

 しれっと言い放ち、顔を寄せた黄瀬が黒子のそれを口内へと導く。

「なッ‥ァ、やめ‥っ」

 唇から逃れようと黄瀬の髪を引っ張って抵抗するも、腰をさらにキツく引き寄せられてはそれも叶わなかった。

 黄瀬は片方の手で双丘を開くと、もう片方の手でそっと蕾の中心へ触れた。先ほどまで解されていたそこは黄瀬の指を簡単に受け入れ、そのまま奥深くまでズッと飲み込む。

「ぅわ‥んっ、‥やッ‥‥」

 背筋を走ったゾクゾクとした痺れと、一瞬でも気を緩めれば簡単に崩れ落ちてしまう体勢に、黒子は震える指先を黄瀬の肩に、懸命に肢体を支えた。

 容赦なく指を抽挿され、前も後ろも同時に攻められ、押し込めていた欲までも引き摺り出される感覚に視界がふらつく。

 下を向けば自分のモノを咥える相手の顔がイヤでも目に入り、居たたまれない体勢に黒子はどうしたらいいのか分からなかった。

 黄瀬の口淫姿があまりにも猥褻で、羞恥から目を逸らそうとするのに、そこからくる独占欲と優越感に酔わされて、目が離せない。

 欲に塗れた自分はどんな顔をしているのだろうと、黒子は考えただけで逃げ出したくなった。

 きっと興奮しきった顔をしているに違いなくて、そんな表情を平気で晒していることに恥ずかしさが込み上げる。

 時折上目に見つめるの黄瀬の瞳が「淫乱っスね」と言っているようで、黒子は堪らずに目を瞑った。

 視覚を失えば他の器官が働きを増すと知っていながら、どうしてそうしてしまったのか。黄瀬の指と口の動きが鮮明になって、さらなる快楽へと追い詰められた黒子は、容易く限界を迎えた。

「黄瀬く、ん‥‥ もう、立ってられません‥っ」

 太腿は痙攣したように震え、身体を支えているのも本当に限界だった。黒子は肩を掴んでいた指先に力を込めて、どうにかして欲しいと訴える。けれど黄瀬は中心から唇を離すと、口淫を少し休むように意地悪く尋ねた。

「なんで?」

「どうしてキミはそうやっていちいち‥っ」

 わざと言わせようとする趣味の悪さに黒子が苛立ちを見せると、黄瀬はそうなることを知っていた口振りで、この上なく低く、艶を帯びた声を出す。

「いちいち言わせたいんスよ」

 有無を言わせない台詞も、それでいて何処か甘えるような視線も、本当に狡猾で卑怯だと思うのに、一瞬にして捕らえられ、身動きが取れなくなる。

「ズルいです」

「知ってるっス」

 こういうところが本当に。

「だからなんでか教えて」

 濡れた声がいっそう自由を奪い、黒子には選択の余地が無かった。

「それは、黄瀬くんが‥、」

「うん、」

「立ってられないくらい、悦くするから‥っ」

 途切れ途切れに紡がれた言葉に、黄瀬はぶるっと肢体を震わせた。

「ならどうして欲しいっスか」

 後孔を犯す指が休むことなく抜き差しを繰り返し、欲望のままに口走ってしまいそうになるのを、黒子は残った理性を手繰り寄せて必死に耐えた。

「ハッ、‥ぁっ‥‥、そんなことまで言えません‥っ」

 すると黄瀬は、今まで執拗に体内を蹂躙していた指をあっさりと引き抜き、黒子の両腕を掴んでグイッと自分の元へ引っ張った。

 バランスを崩して倒れ込んだ黒子の身体を抱き止めて、黄瀬が鼓膜を湿らすように耳元で甘く囁く。

「オレは黒子っちの中でもっと気持ちよくなりたいんスけど」

 ゆっくりと顔が離れていき、覗くように視線が合わせられる。

「だから黒子っちも教えて」

 すぐ目の前に迫った瞳が淫靡を纏い、黒子はグッと息を飲んだ。

「な‥んで、そんなに言わせたがるんですか‥っ」

「なんでって、黒子っちの口で、その声でねだられたら、それだけでイきそうになるから」

 臆面なく言い切った黄瀬に全身が一気に火照り、黒子は上気した顔を隠すように罵声を飛ばした。

「な、バカじゃないですかっ なんでそんなこと平気で‥っ」

「バカっスよ、てゆうかアンタに関してそうじゃなかったこと今まである?」

 開き直った黄瀬がゆっくりと顔を寄せ、お互いの息が掛かるところまで近付いてピタッと止まった。

 触れそうで触れない距離は明らかに相手が仕掛けてきた駆け引きで、こちらから重ねれば、それは負けを認めたことを意味する。そうと分かる以上、絶対に自らは重ねられない。

「ねぇ黒子っち、」

 なのに至近距離で囁かれた声と、唇に触れた熱い吐息に、その意志も簡単に曲げられる。

「もっとオレのこと欲しがってよ」

 結局許してしまうのは、相手が他の誰でもなくこの人だからで、それを居た堪れないほど実感させられる今が、黒子にとっては悔しくて堪らなかった。

 じりじりと下肢が疼き、頭の奥が恍惚とするほどに焦がれて、一瞬の恥辱と引き換えにこの唇が奪えるならと、黒子はそろりと口を開いた。

「黄瀬くんが‥、欲しいです」

 恥ずかしさに震えながらも色香を含んだ声は、何度聞いても黄瀬を堪らなくさせる。

「どこに?」

「‥っ、ナカ‥、に、」

 こんなふうに求められては自分の欲を後回しにすることも、待つことも、もはやできない。

「いいっスよ、いくらでも 」

 艶を帯びた声で答えると、その声と表情だけでイきそうになったのは黒子も同じで、切なげな吐息は余すことなく黄瀬の中へと消えていった。 

「ん、‥っ ‥んぅ‥っ」

 零れる吐息と流れ込む唾液を残らずすべて飲み込んで、重なった唇が離れないよう奥まで執拗に舌を挿入する。

 それでも飲み込み切れなかった唾液が頬を伝い始めると、黄瀬は片手で黒子の項に手を這わせ、するりと後ろ髪に指を絡めた。その感触に黒子の躰がビクッと震え、反動で唇が浮いた瞬間、それを逃さないようにと後頭部を押さえ付けた。

 黄瀬は空いている手をベッドに付いて起き上がると、重ねた唇はそのままに黒子をゆっくりとベッドへ倒していった。

「ん、‥‥ ふっァ‥」

 重力に逆らえず微かに離れた唇の隙間から艶やかな吐息が洩れ、黒子はそれを拒むように黄瀬の首筋へ両腕を回し、ぎゅっとしがみ付いてキスを求めた。

 そんなに可愛くせがまなくてもいくらでもしてあげるのにと思いつつ、まぁそうは言っても今はちょっとムリだなと、黄瀬は密かに笑う。

 黒子の背中がベッドに辿り着くと、黄瀬は唇を伝う透明な雫をねっとりと舐め上げ、あとはさほど惜しんだ様子もなく離れていく。

「ん、‥黄瀬くん、な、んで ‥ですか、‥もっと‥」

 潤んだ瞳で愛らしく強請られて、黄瀬の心臓がどきりと鼓動する。けれどそれに応えてやれる余裕はなかった。

「うん、ごめんね、黒子っち」

 黄瀬はそれだけ言うと、黒子の膝裏に手を掛けてグイッと両脚を大きく開いた。

「な、んっ、‥‥」

 いやらしく屹立した中心と、そこから溢れる体液で濡れた後孔が黄瀬の目に晒される。今さらだと思っても黒子は羞恥に耐えられず顔を伏せた。

「ちゃんとこっち見て」

 けれど黄瀬にそれを制される。

「いや‥、です‥‥」

「なんで? オレが入るとこちゃんと見てなきゃ意味ないじゃないっスか」

 この人は平気な顔してなんてことを言うのだろうと、黒子は恥辱と吃驚に目を見開いた。

「なに言ってるんですか、バカなんですか、そんなのどっちだって同じじゃないですか」

 入口に黄瀬の熱い肉杭が宛がわれ、大きく脈打つそれを入口に感じただけで堪らないのか、後孔が期待にヒクつく。

「黒子っちはいつも肝心なところで目ぇ逸らすから知らないんっスよ」

 こうやって一つになるのがどんなに気持ちいいのか。

「全然違うのに」

 ひたすら色めいた声に黒子は難なく囚われる。

「だから、ねぇ、黒子っちも試してみなよ、こっち見て、オレから目ぇ離さないで」

 甘美な呪文のように低く悠々と囁かれる言葉に捕縛されて、逸らしたくても自由を奪われたように黒子は目が離せなかった。

 その様子に黄瀬が満足そうに微笑む。

「そのままっスよ」

 入口に宛がわれていただけだった先端がグっと後孔を拡げる。

「う、ぁ、はっ‥ぅんッ‥‥」

 時間を掛けてゆっくりと侵入してくる黄瀬の熱が、入口の襞だけではなく腸壁さえも徐々に押し拡げていく。

「ハッ‥‥ァ、‥い、や‥です‥‥黄瀬く‥ん‥っ」

 目に映る黄瀬の妖艶さに、隠すことなく恍惚に身を任せる表情に、黒子の全身がぞくぞくと慄いた。 

「今度はなにがヤなの?」

 小さい子供を宥めるようにやさしく声を掛けながら、黄瀬は力を緩めることなく奥へと侵攻していく。

「ア、‥もう‥、‥っ、‥」

 その表情を見ているだけでイきそうになるとは口が裂けても言えない。後孔を蹂躙する淫靡な熱と快感が相俟って、黒子は意識を飛ばしそうになった。

「だから言ったじゃないっスか、そうやって黒子っちももっとオレに感じたらいいんスよ」

 黄瀬はそう言うと、先ほどまでの緩慢な動きが嘘のように、黒子の体内を一気に最奥まで貫いた。

「――――― ッ!!」

 突然与えられた強すぎる衝撃に黒子は背中を仰け反らせ生理的な涙を流す。

「ひ、ぁっ‥‥黄、瀬く‥‥っ」

 強烈な刺激をやり過ごすためか、黒子はぎゅっと目を瞑ったが、次に瞼を開いたときには再び黄瀬を見つめ、そのまま目を逸らすことはなかった。

「アッ、はっ‥ァ、‥ん‥‥っ」

 この瞬間だけは何回見ても堪らないと、黄瀬は凶猛なまでに淫らな表情にぶるっと肢体を震わせ、辛うじて理性を繋ぐ。

 先程まで指で散々拡げられ続けたそこは、痛みを伴うことなく熱い猛りを根元まで飲み込んでいった。けれど急速押し入ってきた肉塊に極限まで後孔を開かれれば、その侵入を拒むようにヒクヒクと入口と内壁が収斂を繰り返す。

 黄瀬は自身を締め付けるその感覚に陶然としているのか、衝撃に顔を歪めた黒子を気遣ってなのか、奥深くを貫いたまま内側の温度を確かめるようにそれ以上動こうとはしなかった。

 内臓が迫り上がるような圧迫感が続き、それが言いようの無い愉悦に変わる頃、黒子は自分を見下ろす黄瀬の熱っぽい視線にすら耐えられず達しそうになった。

「‥っ、あ‥‥もう、黄瀬、くん‥‥動いて、‥ください‥っ」

「もうダメ?」

「ん、‥‥も、お願いですから‥‥っ」

「それは困ったっスねぇ、これからなのに」

 黄瀬は黒子の懇願に靡くことなく、鈴口から蜜を零し続ける根元をギュッとキツく片手で戒めた。

「ひっァ‥‥、あっ‥‥」

 黄瀬の手によって射精を禁じられた所為で反射的に後孔が緊縮する。

「や、‥‥もう、イきたい‥‥っ」

「だからってそんなに締め付けないで」

「‥‥は、ァ‥‥勝手なこと、言わないでください‥ッ」

 睨み付ける黒子の目が艶めかしく光って、黄瀬の背筋がぞわぞわと戦慄いた。

「あぁもう、見てるだけでイきそう」

 黄瀬はそう言うと黒子の返事を待たずゆっくりと律動を開始した。

「う、あ‥、んぅっ‥‥、っ‥は、ァ‥‥っ」

 抉るように何度も何度も黄瀬の肉杭が内部を犯し、前立腺を掠めるたびに目の前が恍惚とした。けれど吐精しないように絡められた指先が、達することを頑なに許さない。

 直腸を限界まで押し拡げられ、深く深く穿ち続ける太い楔に腸壁を嬲られ、根元をきつく締め付けられているにも関わらず窪みから淫水が溢れ出て止まらない。

「や‥ァ‥‥ハッ‥‥」

 先端から止め処なく流れる体液が黄瀬の指を濡らし、さらに流れ落ちて開ききった入口へ辿り着くと、潤滑油となって肉塊を咥え込むのを助けた。

 柔らかな襞を擦り上げるように突き立てられ、内側の粘膜を引き摺るように抜き出され、内部から溢れる腸液と、流れ着いた蜜液が、結合部でぐちゅぐちゅと淫猥な水音を立てる。

「すげぇやらしい音鳴ってんだけど、そんなにイイ?」

「ち、違っ‥ァ、‥‥んっ‥」

「違わないよね、ほら、」

「あっ‥‥い、やだ‥‥ッ」

「こんなにやらしく溢れさせてるし」

 黄瀬の爪先が尿道に喰い込み、猛烈な刺激に黒子の背中が弧を描いた。

「ひ、あッ‥‥っ」

 黄瀬は黒子の最も感じる処を狙ってひときわ深いところまで一気に穿つと、そのままぐいぐいと腰を押し付け内側の凝りを刺激した。

「あっ、‥あ、あ‥‥ひ、う‥‥」

 行き過ぎた快楽が黒子を襲い、たとえようもないほどの熱量と、圧倒的な存在感に躰が溶けていく気がする。

「‥‥っ、あ‥‥あぁ‥っ、き、せくん、も‥う、イかせてください‥‥っ」

「んっ‥ そーっスね、オレもそろそろ限界」

 根元をキツく握り締めていた手を離してやると、黒子はようやく解かれた戒めに安堵の溜め息を零した。

 けれどその解放に喜んだのも束の間、黄瀬の両手が膝裏を掴んで、そのまま胸に付くほど高く持ち上げられる。左右に大きく脚を割り開き、覆いかぶさるような体勢になった黄瀬は、繋がりをさらに深くしようと爛熟した内壁を巻き込みながら、自身を最奥へと突き進めた。

 痛みにも似た快楽を与えられ目の前がチカチカとする。

「ひぅ、‥や‥ぁ、ッ‥‥もっ、‥あ‥‥っ」

 容赦なく与えられる悦楽に涙をポロポロと流して啼く黒子に煽られて、黄瀬も高潮を求めるように細い腰を掴んで激しく揺さぶり、快楽だけを追った。

 営々と激しくなる抽挿の中で、一番感じやすい部分を黄瀬の肉杭がひたすら抉り、繰り返される摩擦に腸壁がびくびくと痙攣し始めると、そこから黒子が達するまでに時間は掛からなかった。

「イっていいっスよ」

 黄瀬の言葉に促されるように、黒子の後孔がぎゅっと収縮して、先端から熱い飛沫を放つ。

「あ‥‥あァァ‥‥っ!」

「‥‥‥ッ!」

 勢いよく噴き出した白濁が黒子の腹を濡らし、内側をぎゅうぎゅうと締め付けると、その狭小さに堪え切れず、黄瀬もまた誘われるように、奥深いところで欲望の果てをすべて吐き出した。

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